『クマの掲示板』

僕には毎年楽しみにしている場所がある。それは林道沿いの大きなトドマツの樹。この樹を最初に見つけたのは5年ほど前のことだ。古いヒグマの爪痕が刻まれていた。それから毎年、その年の新しい爪痕が更新されてゆく。そんな爪痕を見ては、「ああ、今年も元気だな。」などと思うのである。きっと、クマたちの掲示板になっているのだろう。爪痕の他にも臭いなど、いろんな情報がある。今年、この掲示板の樹にクマの体毛を見つけた。きっと背中をこすりつけたのだろう。僕もまねをして、背中ではないけれど、手の甲をこすりつけてみた。手の甲には、松ヤニと、クマの毛がついてきた。においを嗅いでみると、松ヤニの意外にさわやかな香りがする。ちょっとした香水の代わりだ。ひょっとすると、クマもこの香りを気に入っているんじゃないかな?そんなことを思うと、背中をこすりつけているクマの表情が、おもしろおかしく想像できる。

森の中での空想は実にたのしい。